COTTON CLUB
Live Report
2009年5月14日  
NATURALLY 7

2年前にCotton Clubで初めてNaturally 7を観たとき、Naturally 7を一言で表すなら「驚き」だと思った。

それはもちろん、Naturally 7の代名詞ともいえる、ギター、ドラム、ベース等全ての楽器音を口で表現する「Vocal Play」が大きな理由だ。しかしそれ以外にも、素晴らしいステージパフォーマンス、縦横無尽に駆け抜ける音(鳥の飛び立つ音や「Feel It」でのドラム)、Vocal Play よりも音が重なって曲になっていく様にブッ飛ばされる(Rodの)Loop Pedalを使ったパフォーマンス、さらにStevie WonderやEarth, Wind & Fireではなく、Simon & Garfunkelをメドレーに選ぶ等々、彼らは観客を楽しませるために、様々な手法や方法を用いて、こちらの常識を覆すような「驚き」を仕掛けてくる。

しかしNaturally 7を聴き込んでいくと、さらに大きな「驚き」に出会った。それは、Naturally 7には「らしい」曲が無い、ということである。

これは彼らのLIVE(もしくはDVD「Live At Montreux」)に顕著に現れているが、そこで演奏されている様々な種類の曲は、そのハイクオリティさとは裏腹に、どれをとっても、これこそNaturally 7の真骨頂!というには違和感があるのだ。

もちろん、好みはある。しかし、例えばHIP HOP色の強い「Can Ya Feel It?」や「Feel It」が好きだと言っても、それがゴスペルを想起させる神聖な雰囲気の「Another You」や、一番POPS色が強くメロディアスな「Say You Love Me」、もしくは次々変わる曲とリードヴォーカルで魅せてくれるLIVE版「What is it?」よりもNaturally 7らしいか、と聞かれると、う〜ん?と首を傾げてしまう。(そもそもここに挙げる曲だって、鳥が飛び立つMr.Misterのカヴァー「Broken Wings」、情景描写が秀逸な「Let It Rain」、元々教会で歌っていたというゴスぺル曲「Bless This House」、Quincy Jonesを熱狂させた新曲「Wall of Sound」、 王道だがやはり素晴らしい「Amazing Grace」等、候補はまだまだあるのだ)

早い話が、どの曲も「この曲一筋10年歌ってきました」と思わせるほどの完成度、世界観、雰囲気、なのである。

この「らしい」曲が無い、という感覚は、彼らが常に現状に満足せず進化し続けているから感じるのか、年間200本ものステージを何年も続けている故の賜物なのか、原因はよく分からないが、いずれにせよ、これほど個々の曲が素晴らしいにも関わらず、Earth, Wind & Fireの「September」やDelfonicsの「Didn't I blow your mind this time」に相当するような曲が思いつかない/選べないのは、初めて経験する類の「驚き」である。

その中でもあえて選ぶとすれば、現時点では、本編最後の「Feel It」が最有力だと思うが、メンバー各人に、彼らが考える「らしい」曲/Naturally 7を最も端的に表している曲は何かを聞いてみるのも、非常に面白いと思う。(私が聞いてみたいのもヤマヤマだが、如何せん私は一ファンで、その英語力・発音も、毎回恒例の終演後サイン会で、メンバー(Dwight)に「I love 『No Christmas Without You』」と伝えたら、一瞬「?」という顔をされてしまったレベルなので、なかなか実現が難しい。。)

しかしよくぞこんなグループが存在し、また出会えたものである。

本当に偶然、Cotton Clubの近日公演紹介VTRで彼らを知り、「男性ヴォーカルグループって、興味はあるけど見たことないから」という理由だけで足を運んだ2年前。人生に於いて予測不可能なのは感情までもなのだということを、激しい衝撃と共に私に知らしめた彼らのステージ。

それは漫画家浦沢直樹氏の講演会に参加した際、浦沢氏が中学生の頃に手塚治虫の「火の鳥」を読み、それが自分にとっての「成人式」―即ちその後の人生観、価値観等、全てを決定付けた瞬間―だったと仰っているのを聞いて、真っ先に Naturally 7のLIVEを連想し、自分にとってのそれだと「分かった」ほどである。

そんな、今まで想像すらしていなかった「驚き」や「衝撃」をくれたNaturally 7だが、最終的にはやはり、音楽として素晴しいという結論に落ち着く。(こんなことを書くのは甚だ無粋だと重々承知しているが、でも言わずにはおれないのだ)

何かに疲れたり、自分では「もうダメだ」と思ったときでも、音楽を聴くと、慰められ、癒され、踏みとどまる勇気や力が湧くこと。または、一日一日を「良く」生きようと思う気持ちを与えてくれること。(人生は「Music Is The Key」であるということ―。)そんな、音楽そのものが持つ最も本質的で根源的なパワーや魅力を、彼らは私に実証してみせた。

今回のステージを観終わった後、私の中には、不思議な幸福感と、今まで感じたことの無いような静かな充足感が胸いっぱいに広がっていた。それから一ヶ月以上が経った今もなお、彼らはその存在と音楽で、私を支え、鼓舞し、私を内から満たしてくれている。


20代 女性 東京都

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