FEATURES | ULYSSES OWENS JR.
【来日直前インタビュー】ユリシス・オーエンス・ジュニア
ユリシス・オーエンス・ジュニアが新たに結成したグループ<ジェネレーション Y>
いま最も心躍る“ジャズ”が聴ける新作『A New Beat』に込められた想いとは
text = Mitsutaka Nagira
interpretation = Kazumi Someya
2024.3.19
名ドラマーのユリシス・オーエンス・ジュニアが新たなグループ<ジェネレーション Y>を結成し、『A New Beat』を発表した。音楽的にはオーセンティックなジャズなのだが、僕はこのアルバムを聴いてものすごくテンションが上がった。
その理由はこのバンドのメンバーにある。クレジットを見るとそれなりのジャズ好きでも聞いたことがない名前が並ぶ。その多くがまだ音源をリリースしていない、もしくは録音に参加したこともない20代の若手ばかりだ。しかし、この若手たちが実に素晴らしいのだ。とにかく演奏がフレッシュで、どこを切ってもエネルギッシュで意欲的な演奏が続く。ビバップやハードバップが生まれた時代、ジャズ・ミュージシャンたちの多くは若く、ジャズにはまるでロックやパンクのような熱量があった。ここでの若手たちの演奏を聴いているとそんな勢いを感じるのだ。とにかくこのアルバムはどこまでも瑞々しく、早熟な洗練も粗削りな躍動もすべての瞬間が美しい。
「Sticks」from 『A New Beat』
3月27日から29日、コットンクラブでユリシスの新バンドがライブを行う。その中には昨年素晴らしいデビュー作『Words from My Horn』を発表した新鋭トランペット奏者アンソニー・ハーヴィーや、『A New Beat』でも活躍した新鋭タイラー・ブロックをはじめ、サックス奏者ラングストン・ヒューズ II 、ベーシストのトーマス・ミロバックが名を連ねる。これからの才能が日本で初めての演奏を披露する。
今、最も心躍る“ジャズ”が聴けるこのプロジェクトについてユリシス・オーエンス・ジュニア本人に語ってもらった。
2015年3月 / NEW CENTURY JAZZ QUINTET公演@コットンクラブ
ーー新作『A New Beat』についてコンセプトを教えてもらえますか?
僕は日本で長年、ニュー・センチュリー・ジャズ・クインテットというバンドをやっていた。大林武司、中村泰士、ベニー・ベナック、ティム・グリーンをフィーチャーしたもので、とても上手くいっていた。でも、全員が忙しくなりすぎてしまったんだ(笑)。僕はこのバンドのスピリットを持ち続けたいと思っていた。
それから何年も経ったころ、僕はジュリアード音楽院の生徒たちのことを考えるようになった。僕は7年間、ジュリアード音楽院で教えていて、彼らが成長し、成熟できるような状況が必要だと思うようになったんだ。つまり、<ジェネレーションY>は、アート・ブレイキーがしてきたように、僕が年長者として、若いミュージシャンたちが進化し、成長するのをサポートするのがコンセプトなんだ。僕らはツアーをして、ずっと一緒にバンドとして演奏していた。パンデミックの直前の2018年、2019年ぐらいからかな。パンデミックが終わってツアーが増え始めた頃、僕はそろそろアルバムを作る必要があると思った。この5年間に、僕が世界中でやってきたことをアルバムにしたかったんだ。
そして、僕らが作るなら偉大なミュージシャンたちにスポットを当てたトリビュート作品にしたいと思った。ジョージ・ケーブルズ、ロイ・ハーグローヴ、それからジャッキー・マクリーンのオリジナル曲もある。僕らのオーディエンスが聴きたい曲や、僕らが演奏したい曲を集めただけとも言えるね。
「Bird Lives」from 『A New Beat』
ーーニュー・センチュリー・ジャズ・クインテットのメンバーは、当時は若手だったけど、どこか成熟していたように思います。今回は学生も含まれたものすごく若いバンドです。にもかかわらずなぜここまでのクオリティが可能になったのでしょうか?
僕と若手ミュージシャンには共通のテーマがある。ひとつは音楽に対して真剣な若いミュージシャン。とても真面目に毎日練習していて、自分の楽器や演奏の技術で一番になりたいと思っている人たちだ。僕にとっては、年齢よりも練習における規律や一貫性、プレイに対する努力の度合いが重要なんだよね。
そして、もうひとつはこの手の音楽を夢中になって聴いている若いミュージシャン。2024年にこの手の音楽を若者が聴くことはポピュラーとは言えないからね。僕が言っている”この手の音楽”というのは、アート・ブレイキー、ホレス・シルヴァー、それにジャッキー・マクリーンといった重鎮たちの音楽のことだ。ロバート・グラスパーやミゲル・ゼノンのような"モダン"な作品を聴くのと同じように、この手の音楽を聴いている若者はミュージシャンの中でも少ないからね。
僕の場合、同じ興味を持つ才能あるミュージシャンを見つけることにしている。例えば、タケシ(大林武司)に出会った時、彼の演奏を聴いて演奏に聞き覚えがあるなと想って「誰に影響を受けたの?」と聞いたら、マルグリュー・ミラーの名前が出た。オーマイガー!マルグリュー・ミラーは僕の第二の父のようなものだよ。ルーサー・アリソンに出会った時もそうだ。彼は、マルグリュー・ミラー、ジェイムス・ウィリアムス、ドナルド・ブラウンが大好きだった。ドナルド・ブラウンは僕の恩師だよ。ジュリアードでタイラー・ブロックに出会った時も同じ。彼はテネシー出身で、ドナルド・ブラウン、マルグリュー・ミラーの名前を挙げた。ここに3人のピアニストがいて、1人はまったく違う地域から来た日本人で、他の2人はアメリカ南部出身だ。それなのに、3人とも同じような影響を受けている。そういったことが僕の注意を引いて、彼らをバンドに迎え入れたいと思わせるんだ。
ーーさきほどアート・ブレイキーの名前が出ました。アメリカのジャズにおいては、常に若手と演奏して、若手を育ててきたレジェンドが沢山います。中には使命感を持っていた人もいると思います。そういった伝統はジャズにおいて重要なものなのでしょうか?
そうだね。古くから続く伝統の一環だと思う。この音楽はその伝統の上で成り立っているしね。有名なジャズ・ミュージシャンと彼らを指導した人の名前を挙げてみようか。アート・ブレイキーは、たしかビリー・エクスタインのバンドにいたよね。エルヴィン・ジョーンズはジョン・コルトレーンのバンド。この前、チック・ウェブと彼のバンドについて勉強したけど、そこにはマリオ・バウサやエラ・フィッツジェラルドがいた。
アート・ブレイキーが指導した多くのミュージシャンが、とても偉大なバンドリーダーになったよね。ウィントン・マルサリス、ブランフォード・マルサリス、ジェフリー・キーザー、マルグリュー・ミラー、ビル・ピアース、ジャヴォン・ジャクソン、名前を挙げ出したら10分はかかるよ。そして、現在も生きている世界のトップ・ジャズ・ミュージシャンのほとんどは、ブレイキーかベティ・カーターのバンドのどちらかと過去に何らかの形で繋がりがある。つまり、伝統だよね。僕がやっていることは特別なことではなく、僕がやる以前からすでに存在していたんだ。さっきも言ったように、音楽を聴いて学んで、外に出て、音楽を演奏しようとすると、若いミュージシャンを雇う人が少なからずいるんだ。
2013年12月/ CHRISTIAN McBRIDE TRIO公演@コットンクラブ
※ユリシス・オーエンス・ジュニアは、クリスチャン・マクブライド・トリオのドラマーに抜擢され、世界各地をツアーで回った。
クリスチャン・マクブライドにも同じことが起こったよね。彼は偉大なレイ・ブラウンの指導を長年受けてきて、今では彼のキャリアの多くとレイ・ブラウンがやっていたことは非常に似ている。だから、ジャズ・シーンでは特に長年継続されている伝統だね。僕がやっていることは、ユニークではあるけど、オリジナルではないんだ。この音楽の伝統であるスウィングを背景にやっているという事実が、それを少しユニークなものにしていると思うよ。現在のジャズ・ミュージシャンの多くは、スウィングしていないからね。みんな、スウィングを古臭いものだったり、古風なものとして捉えていると思う。僕は、スウィングこそがミュージシャンシップの基礎だと思ってる。そして、それを非常に高いレベルでやりたがっている若いミュージシャンを見つけることが、僕にとって重要なことなんだ。伝統は、音楽を学ぶだけでなく、その音楽を守り後世に残す方法でもある。20年後に、僕のバンドにいるタイラー・ブロックやフィリップ・ノリスが自分自身のバンドをやる際には、「そうだ、僕はユリシスからチャンスをもらったんだよな」とか言ってたりするかもね。これは生命の循環であり、これからも続いていくものなんだよ。
柳樂光隆(なぎら・みつたか)
1979年、島根県出雲市生まれ。音楽評論家。21世紀以降のジャズをまとめた世界初のジャズ本「Jazz The New Chapter」シリーズ監修者。共著に鼎談集「100年のジャズを聴く」など。鎌倉FM「世界はジャズを求めてる」でラジオ・パーソナリティも務める。
>>>ユリシス・オーエンス・ジュニアのインタビュー続編はnoteにて近日掲載予定
LIVE INFORMATION
ULYSSES OWENS JR. & GENERATION Y
ユリシス・オーエンス・ジュニア & ジェネレーション Y
https://www.cottonclubjapan.co.jp/jp/sp/artists/ulysses-owens-jr/
2024 3.27 wed., 3.28 thu., 3.29 fri.
[1st.show] open 5:00pm / start 6:00pm
[2nd.show] open 7:30pm / start 8:30pm
MEMBER
Ulysses Owens Jr. (ds)
Anthony Hervey (tp)
Langston Hughes II (sax)
Tyler Bullock (p)
Thomas Milovac (b)